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“デンプンエリート”としての生き方|パンの語り部たち Vol.2 ゴスペラーズ 酒井雄二さん【後編】

DATE
2019.7.16
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今、日本中を席捲しているパンブーム。
「パンを作る人」「食べる人」はもちろん、「パンについて語る人」の存在を抜きにしては語れません。
PANPAKでは、その方たちを「パンの語り部たち」と(勝手に)名付け、お話を伺う企画をスタートしました。
パンの語り部たちにお話を伺う特集。第2回目は、日本を代表するヴォーカルグループ「ゴスペラーズ」の酒井雄二さんです。
【前編】旅の途中で出合ったパンを発信、その魅力とは?(公開中)
【中編】旅を続けてきたから分かる、ブームの先(公開中)
【後編】“デンプンエリート”としての生き方(本記事)
【番外編】「極みゆたか」食パンで実演、酒井流 食パンの楽しみ方(公開中)

前編では「ゴスペラーズ」酒井さんの歌いながら旅をしてパンに出合う姿について、さらに中編ではローカルパンブームの流れとご自身のパン好きの原点について伺ってきました。今回は、酒井さんにこだわりのパンの食べ方について伺いたいと思います。

何もつけずに味わうのが、酒井流

酒井さん

子どものころからやっていることなんですが、マーガリンもジャムもつけずに食べます。言い過ぎに聞こえるかもしれませんが、お金持ちの家の子ではなかったので、食パンがご馳走のような、特別なおやつのような存在でして。“何もつけなくても美味しい”というスタンスが、僕の出発点になっているわけです。

だから、「何かつけないと味がないでしょう」とか言われると、激怒してしまう大人に仕上がってしまった(笑)。「味がない」と「味付けをしていない」のは、全く違いますから。

パンを口の中に入れて唾液でデンプンを糖に分解し、甘みを最大化させることで、パンに何もつけなくても十二分にいける。僕が私塾を開くとすれば、“パンを何もつけずに食べること”から始めますね。

その習慣がない人には、本当に美味しい食パン専門店に行って、まずは焼き立てのパンそのままを食べてみて欲しい。買ってパンを手でちぎり、たちまち上げる湯気にワーッと驚いて、やけどしない程度にその熱々の食パンに近づいて、かまどの飯釜の蓋を開けたような体験をして欲しいですね。

僕の実家は農家だったので、かまどがあったんですよ。毎朝梨の木をくべて、フーフー火を吹いて、お米を炊き上がり直で食べて育ちました。いわば「デンプンエリート」。デンプンの英才教育ですね(笑)。だから、炊きたての湯気で噴出する、鍛え上げられたよだれのおかげで、焼き立てのパンを最大限に楽しむことができるんです。

それに何かをつけるなんて、本当にもったいない話。今は東京をはじめ各地に美味しいパン屋さんがたくさんあって、食パン1本1,000円するようなものもある。みんな出かけてわざわざ並んで買って、ご馳走体験を求めているんです。毎日食べるパンとは別に、たまにはご馳走を頂く感覚で高級なパンを買って、何もつけずにそのまま食べて欲しいです。

パンの未来、そしてマスター酒井へ


ーこれまでに酒井さんのパンへの思いをたくさん伺いましたが、パンの未来についてはどうお考えですか。

酒井さん

食パンに何もつけないという話に戻りますが、「うまいものは小麦の持ち味を引き出したものであって、何かを足したものではない」「調味した過剰なものは残っていかない」という祈りにも近い思いがあります。音楽にも通じる僕の願いなんですけれどね。

コンビニの棚は戦場というじゃないですか。売れ行きが悪いとすぐに仕入れがストップされてしまう。そんな場所に何十年も前からあるローカルパンがなぜ残っているのか、その意味から未来のパンの落ち着きどころ、淘汰の波の先が、向かうところが見えてくると思います。

ーご自身のパンにまつわる活動についてはいかがですか?

酒井さん

僕はゲーム、カメラ、家電といろいろと趣味があるのですが、新参者に対して厳しいことを言いがちなんです。「ドラクエの初期三部作をやっていないで何を語るんだ」みたいな感じで(笑)。でも、パンについては分かっていない人に対して、“怖くても優しいマスター”みたいな存在でいたいと思いますね。

知識や経験の蓄積がないのは当然で、そういう人を「にわか」と言って排除してしまったら、業界全体が沈んでいきますから。それは僕が昔、ジャズ喫茶に入るのが怖かった状況に近いものがあります。知識ゼロで「マイルス・デイヴィスは基本中の基本だよ」とか言われるのが怖くて黙って聴いていたのですが、そこで「聴いてみな」と無言でアナログレコードを出してくれるマスターがもし居たらどんなに素敵か。自分もそうなれたらと思いますね。

アカペラが世の中に浸透していく時もそうだったんですが、僕らは1990年代に「これが面白い」と思って始めて、今では大学生アカペラサークルが100も200もできるような時代になりました。自分が面白いと思い始めたころは変わり者扱いされるのが当たり前で、「なんで楽器やらないの?バンドやった方がモテるのに」と言う大衆からは距離のある位置にいる、ギャップを感じた経験があるわけです。

そんな目線で東京にはないパンを地方で見つけて、そのギャップに気付いて欲しいと発信してきたのですが、ブームが来てしまえば今度は大挙して「パン喫茶さかい」にお客さんがやって来る。そこで、「本当にパンに何も敬意がないのね。帰れ」と追い返すのか、「まあ座りな」とコーヒーを出すのか。これは音楽においてもパンにおいても、同じことだと思っています。今は集客・拡大の次のフェーズに来ているのだと思います。

ゴスペラーズのツアーBlu-ray & DVDが6月19日にリリース!

2018年10月3日にリリースされた16枚目のオリジナルアルバム「What The World Needs Now」を引っさげ、全国36都市40公演にわたり行われたツアー。2018年12月25日に開催された東京・国際フォーラム ホールAのステージの模様が映像化されました。

パンを熱く語って下さった酒井さんの、熱く歌う姿もぜひご覧ください!

≪編集部より≫
酒井雄二さんは、音楽活動をベースにした旅を通じて、その先々でパンとの出合いを楽しむ方。「まだ出合っていないパンにどういうものがあるか、検索すればすぐわかることかもしれませんが、僕はしないんです。」というお話が印象的でした。酒井さん、貴重なお話をありがとうございました。


酒井雄二(さかいゆうじ)
1972年愛知県生まれ。早稲田大学に入学後、アカペラサークル「Street Corner Symphony」に入り、「ゴスペラーズ」のメンバーとなる。94年に「Promise」でメジャーデビューを果たし、以降「永遠(とわ)に」「ひとり」「星屑の街」「ミモザ」など多数のヒット曲を世に送り出す。
パンの他にもゲーム、カメラ、家電など多趣味でも知られる。ツイッターやインスタグラムで、独特の視点が光る投稿を続けている。
ゴスペラーズ オフィシャルサイト
Twitter: @uzysakai
Instagram: @uzysakai


パンの語り部たち Vol.2 ゴスペラーズ 酒井雄二さん

【前編】旅の途中で出合ったパンを発信、その魅力とは?(公開中)
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【番外編】「極みゆたか」食パンで実演、酒井流 食パンの楽しみ方(公開中)

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